大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)10334号 判決 1999年3月11日

主文

一  被告大和證券株式会社は、原告に対し、金二億〇五八三万四三八七円及びこれに対する平成七年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山口利勝は、原告に対し、金二億四〇二五万八二七五円及びこれに対する平成七年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告ユニバーサル証券株式会社は、原告に対し、金二億〇一二四万五九七五円及びこれに対する平成七年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求をすべて棄却する。

五  訴訟費用については、被告大和證券株式会社に生じた費用はこれを一〇分し、その三を被告大和證券株式会社の負担とし、その余を原告の負担とし、被告山口利勝に生じた費用はこれを一〇分し、その三を被告山口利勝の負担とし、その余を原告の負担とし、被告ユニバーサル証券株式会社に生じた費用はこれを一〇分し、その三を被告ユニバーサル証券株式会社の負担とし、その余を原告の負担とし、原告に生じた費用はこれを一〇分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

六  この判決は仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  原告の請求

一  被告大和證券株式会社(被告大和という。)及び被告山口利勝(被告山口という。)は、原告に対し、各自八億二四一九万四二五二円及びこれに対する平成七年六月一三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ユニバーサル証券株式会社(被告ユニバーサルという。)は、原告に対し、六億五九九三万八九三五円及びこれに対する平成七年六月一三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告大和及び被告ユニバーサルの従業員であった被告山口において、原告と被告大和及び被告ユニバーサルとのワラント取引について、その勧誘行為に一任取引、利回り保証、断定的判断の提供、説明義務違反等の違法があり、かつ買い付けたワラントについて適切な時期に売り付けて原告の損害拡大を防止すべき義務等がありながらこれを怠った違法があると主張して、被告山口に対しては民法七〇九条に基づき、被告大和及び被告ユニバーサルに対しては同法七一五条に基づき、原告が被告大和及び被告ユニバーサルとのワラント取引により蒙った損害の賠償を求めた事案である。

第三  当事者の主張

一  原告の経歴、投資経験等について

1 原告の主張

原告は、大正一四年一二月二三日に東京都に生まれ、昭和二二年に早稲田大学国文科を卒業し、同時に東京都蔵前に株式会社乙山を創業、経営し、昭和三六年には幼稚園経営に転進し、松戸市北小金に「丙川幼稚園」を創立して幼児教育に携わったりしてきたが、現在は不動産賃貸業を主業としている。

原告は、昭和四八年頃に被告大和の本店に取引口座を設け、株式の現物取引をなしたことがあり、その頃、被告山口と面識を持った。このほか、原告は、野村証券、岡三証券においても証券取引をなした。

なお、被告らの主張にある被告大和の渋谷支店(渋谷支店という。)及び東京支店兜町営業所(東京支店という。)での取引は、事実上被告山口に一任してなしたものであるから、原告にはワラント取引の経験があるとはいえず、原告としてはワラントの商品特性等について説明を受けておらず、ワラントについての知識もない。

2 被告らの認否及び主張

原告が株式会社乙山を創業、経営し、幼稚園経営にも携わり不動産賃貸業を営むこと、被告大和本店で証券取引をなし、その頃被告山口と面識を持ったこと、野村証券、岡三証券で証券取引をなしたことは認める。

原告は、右の他に、株式会社乙山の経営と平行して従業員七人程度の規模のタクシー会社も経営し、また、昭和四一年一月には松戸市長選挙にも立候補しており、かように、原告は、社会的経験、経済活動の経験が豊富であって、政治的関心もあり、識見、能力とも十分に備えている人物である。

原告は、昭和四二年から二、三年間、野村証券浅草支店で、昭和四八年から二、三年間、岡三証券虎ノ門支店で、それぞれ株式現物及び信用取引を行い、その間、野村証券では三〇万二〇〇〇株にも及ぶ日産農林の現物株式の買集め(仕手戦)を行っている。そして、昭和四八年九月からは被告大和の本店営業部において株式現物及び信用取引を継続的に行い、昭和六二年三月以降は渋谷支店ないしは東京支店において株式現物及び信用取引、ワラント取引等を幅広く経験した。

また、原告は、日経新聞や日刊投資新聞を継続購読し、四季報や業界紙(株式新聞、日本証券新聞、証券市場新聞等)を購読し、日本短波ラジオの株式実況放送を聴取していた。

以上のとおり、原告は、約二二年以上の証券取引歴を有するベテラン投資家であり、ワラント取引の経験もあり、証券取引の経験、知識ともに欠けるところはなかった。

二  原告と被告大和及び被告ユニバーサルとの取引経過について

原告の主張の概略は、別紙(六)(原告の主張)記載のとおりであり、被告らの主張の概略は、別紙(七)(被告らの主張)記載のとおりである。

三  被告らのワラント取引における違法について

1 原告の主張

(一) 利回り保証、断定的判断の提供及び一任取引

被告山口は、平成二年一月初め頃、原告に対し、安全確実に運用するから自分に任せて下さい、年利八パーセントで運用します、絶対間違いない、必ず利益を出しますとか、八パーセントは最低であり、これ以上で運用する、まとまった金を持って来るならどんどん増やしてやる、自分に任せてくれ等と申し向け、利回り保証及び断定的判断の提供をして証券取引を勧誘し、原告としては、その経歴や実績から被告山口に絶対の信頼をおいており、銀行に預けておくよりは有利と受け止めて、平成二年一月から三月にかけて、合計一二億三一一五万円を預託して、証券取引によるその資金運用を被告山口に一任した。

利回り保証及び断定的判断の提供は、現行証券取引法(証取法という。)においては刑事処罰の対象となる行為であり、平成三年法律第九六号による改正前の証券取引法(旧証取法という。)においても禁止され、その違反行為は行政処罰の対象となる違法な行為であった。

一任取引は、証券会社が委託手数料目当てに過当な取引を行う可能性があることや投資家の健全な投資判断を歪めるおそれがあることから、証取法は原則禁止しており、旧証取法下においても昭和三九年二月七日付蔵理第九二六号通達により実質的に禁止されたのと同様の運用がなされてきたものであるから、一任取引を証券会社側から勧誘することは違法性を帯びる行為というべきである。

(二) 説明義務違反

ワラントの商品特性からすると、単に、<1>ワラントには行使期間があり、これを経過すれば価値がなくなること、<2>ハイリスク・ハイリターンであることを説明すれば足りるわけでなく、顧客がワラント取引について自主的かつ自由な投資判断ができるように、株式の価格変動とどこがどのように異なり、いかなる場合にどのような価格変動をするものなのかを、正確に理解するのに十分な説明をなすことが必要であり、かつ、勧誘する個々のワラントについて、その銘柄についての一般的な説明に止まらず、一株あたりワラントコストの内容及び株価との関係、権利行使価格と株価の関係、残権利行使期間との関係等に基づき、価格変動の具体的特質等を説明すべき義務があるというべきである。

にもかかわらず、被告山口は、原告に対し、ワラントの商品特性を説明せず、却って、ワラントは限定された商品で三倍から四倍の運用のメリットがあるもので、価格も大手四社の操作で相場が形成されるといった旨の虚偽を含む説明をして、原告のワラントの商品特性とリスクについての理解を妨げた。

また、原告はワラントに関する説明書を一切受領していない。

(三) 不合理な取引

被告山口は、原告から預託された資金の大部分を投資判断が難しくリスクの大きいワラントに投入するという、投資手法として非常に偏った、なおかつ顧客に不測の損害を及ぼすおそれの高い取引を行った。

殊に値下がりしか考えられないような高ポイントのワラントを買い付けたり、値上がりのほとんど見込めない一〇ポイント以下の低ポイントのワラントを買い付けたり、更に、権利行使期間の残り少ない投資価値の薄いワラントを買い付けた。

(四) 受託者義務違反

証券会社が顧客から取引の一任を取り付けて証券取引を行う場合には、証券会社と顧客との間には委任に準じた関係を生じ、ワラントの価格変動の複雑さ、投資判断の難しさからすれば、被告山口には、原告が不測の損害を蒙ることがないように配慮すべき義務があり、取引継続中に、具体的には、その各ワラントの価格帯や銘柄、残行使期間、取引残数量に応じて、値下がりの危険性が高い場合には、その内容や程度について積極的に報告したうえで、処分も含めた助言、指導をなし、顧客の具体的指示を仰ぐ義務があるというべきである。

にもかかわらず、被告山口は、原告の取引口座において、評価損や実損が発生し、そのままでは原告の利益が大きく損なわれる事態となっていながらこれを放置し、損失の拡大を回避するようにワラントを売り付ける等の適切な措置を執らなかった。

2 被告らの認否及び主張

(一) 利回り保証、断定的判断の提供及び一任取引の事実については否認する。

被告山口は、被告ユニバーサルにおいては株式トレーディング室付部長兼ワラント部長であり、営業職ではなかったから、利回り保証までして取引を勧誘する必要はなく、逆に、一二億円余の投資金額について年八パーセントの利回り保証をして、それが達成できないときには、被告山口においてその補填をすることは不可能であり、それこそ原告から法的責任を追及され、他方会社からは処罰され失職しかねないことになるから、そのような約束をする合理性がない。

また、原告は、前記のとおり豊富な投資経験及び知識を有し、かつその投資態度は慎重なものであったから、そのような原告が、利回り保証や断定的判断の提供を信じたり、被告山口を全面的に信用して取引を一任するということはあり得ないことである。

また、被告山口は、個々の全ての取引毎に事前に原告からの委託を受けてこれを執行したものであるが、仮に一任取引がなされたとしても、一任取引は旧証取法一二七条において法律上認められていたものであり、顧客の同意を得て行われた一任取引には権利侵害性が存在しないから、不法行為が成立する余地はない。

(二) 原告は、昭和六二年三月から約二年間、渋谷支店及び東京支店において、ワラント取引を多数回経験済みであり、被告山口は、昭和六二年五月、原告に対し、ゼンチクのワラント取引にあたり、ワラントの商品特性を説明した。すなわち、ワラントは株式とは異なり、株式を引き受けることができる権利部分の売買であること、期限が来るとその権利がなくなり価値がゼロになること、値動きは株価に連動するが、株価の上下よりも大きく上がり下がりすること等を説明した。

そして、原告は、平成元年三月五日、分離型ワラントの説明書を受領し、ワラント取引確認書を作成し、被告大和に対し、ワラント取引についての説明書の内容を理解したことを明らかにし、また、被告大和は、原告に対し、平成元年九月に営業部店から、平成二年九月から毎年九月に営業本部から、ワラント取引説明書を郵送している。また、原告は、平成元年八月三日、取引説明書を受領し、確認書を作成し、外国新株引受権証券の取引についての説明書の内容を理解したことを被告ユニバーサルに対して明らかにし、また、平成二年八月一三日、説明書を受領し、ワラント取引確認書を作成し、ワラント取引についての説明書の内容を理解したことを被告大和に対し明らかにしている。

以上のとおり、被告らにおいては、説明義務を尽くした。

また、原告が被告大和及び被告ユニバーサルから受領したワラントの預り証には、権利行使最終日が明記され、決済日または利払い日、利率、償還年月日欄は、*印で埋められていたから、原告は、ワラントには権利行使期間があり逆に償還日や利率の定めがなく、社債とは全く違った商品であることを十分に知っていたはずである。

また、昭和六〇年一二月から平成二年三月までの間、原告が購読していた日経新聞、日刊投資新聞等には、ワラントについての記事が繰り返し掲載されており、原告は、これらの記事からワラントに関する多くの知識を吸収したはずである。

(三) 高ポイントのワラントや低ポイントのワラントについても、市場で流通しているものであり、高ポイントあるいは低ポイントという理由のみによってその買付が不合理な取引とされるいわれはなく、現に、原告の取引口座において買い付けられた低ポイントのマイナスパリティのワラントも価額が上昇した時期もあった。

四  被告らの責任について

1 原告の主張

(一) 被告山口の責任

被告山口は、ワラント取引の知識、経験の全くない原告に対し、ワラント取引についての一般的な説明をすることもなく、被告山口の経歴、地位に対する原告の信頼を奇貨として、利回り保証や断定的判断を提供してワラント取引を勧誘して多額の資金を預託させたうえ、事実上の一任取引に持ち込み、個々のワラント取引に当たって、その商品特性やリスク、個々のワラントの権利行使価格や権利行使期間、株価との関係、一株あたりワラントコスト等について全く説明せず、原告の指示を受けないままに、預託資金の大部分をリスクの高いワラント購入に充てる等という不合理な取引をなしたものであり、かような行為は社会的相当性を欠く違法なものであり、不法行為を構成する。

(二) 被告ユニバーサルの責任

別紙(一)の買付欄記載のワラントの買付は、被告山口が被告ユニバーサルのワラント部長の職にあった際に被告ユニバーサルの業務の執行としてなされたものであるから、被告ユニバーサルは、使用者責任に基づき、これにより、原告が蒙った損害を賠償する責任がある。

(三) 被告大和の責任

(1) 被告ユニバーサルにおいて買い付けられたワラントについて

被告大和が被告山口を被告ユニバーサルに出向させたのは、ワラント取引に関するノウハウ等を被告大和が系列下位の証券会社である被告ユニバーサルに習得させ、被告大和が国内に還流させた外貨建てワラントを被告ユニバーサルを通して販売するためであったから、被告ユニバーサルにおける被告山口のワラントに関する業務は、営業活動も含めて表面的には被告ユニバーサルの業務執行ではあるが、被告大和の業務執行行為としての側面も有しているといえ、別紙(一)記載のワラント取引については、被告大和は、使用者責任に基づき、原告が蒙った損害を賠償する責任がある。

仮に、以上の点が認められないとしても、別紙(一)記載のとおり被告ユニバーサルで買い付けられ、被告大和に移管された後売り付けられたワラント(別紙(一)及び(二)において冒頭に*印が付されたもの)については、被告山口は原告が不測の損害を蒙ることのないように、誠実に取引を行う義務があったにもかかわらず、その義務に違反して漫然と取引を継続して、原告に損害を蒙らせたから、被告大和は、使用者責任に基づき、これにより、原告が蒙った損害を賠償する責任がある。

(2) 被告大和において売買されたワラントについて

別紙(二)記載のワラントの売買のうち冒頭に*印が付されていないものは、被告大和の業務の執行としてなされたものであるから、被告大和は、使用者責任に基づき、これにより、原告が蒙った損害を賠償する責任がある。

2 被告らの認否

いずれも否認する。

五  原告の蒙った損害について

1 原告の主張

(一) 原告は、被告ユニバーサルにおいて買い付けた別紙(一)記載のワラントについて、差引六億一九九三万八九三五円の損害を蒙り、別紙(一)及び(二)記載のワラントの売買により差引七億七四一九万四二五二円の損害を蒙った。

(二) 弁護士費用

被告大和及び被告山口について連帯して五〇〇〇万円、被告ユニバーサルについて四〇〇〇万円が相当である。

2 被告大和及び被告山口の認否

原告が別紙(一)及び(二)記載のワラント取引により合計七億七四一九万四二五二円の差引損を生じたことは認める。

3 被告ユニバーサルの認否

原告は、被告ユニバーサルにおいて買い付けたワラントについて合計六億四七四八万六五八四円の差引損を生じた。

五  よって、原告は、被告大和及び被告山口に対し、右差引損害七億七四一九万四二五二円及び弁護士費用五〇〇〇万円の合計八億二四一九万四二五二円(うち六億五九九三万八九三五円については被告ユニバーサルと連帯して)及び遅延損害金を、被告ユニバーサルに対し、被告大和及び被告山口と連帯して、右差引損害六億一九九三万八九三五円及び弁護士費用四〇〇〇万円の合計六億五九九三万八九三五円及び遅延損害金を、支払うように求める。

第四  当裁判所の判断

一  原告の経歴及び投資歴、並びに渋谷支店及び東京支店における取引について

1 《証拠略》によれば、次の事実が認められる(但し、原告が昭和二二年に早稲田大学を卒業し株式会社乙山を創業し、その後幼稚園経営に携わり、現在は不動産賃貸業を営んでいること、原告が昭和四八年九月に被告大和の本店営業部に取引口座を開設して株式取引を行い、その頃被告山口と面識を持ったこと、野村証券、岡三証券においても証券取引をなしたこと、その後、原告は被告山口が昭和六二年一月に被告大和の渋谷支店長になったことを知り、被告山口を訪ねて昭和六二年三月に渋谷支店に取引口座を開設し同口座において証券取引がなされ、昭和六三年一二月二一日に三六八九万二一〇九円が引き出されて取引が終了したこと、被告山口が昭和六三年八月に被告大和の投資信託部付部長になり、原告が昭和六三年一二月に被告大和の東京支店に取引口座を開設し同口座に三六〇〇万円が入金されて証券取引がなされたことは争いがない。)。

(一) 原告(大正一四年一二月二三日生)は、昭和二二年に早稲田大学国文科を卒業し、同時に東京都蔵前に株式会社乙山を創業し以後昭和四八年八月まで右会社を経営し、最盛期には従業員一二〇人前後という規模にまでこれを発展させた。これと並行して、昭和三〇年代からタクシー会社を経営し、昭和三六年には幼稚園経営も始め、昭和四〇年頃からは不動産売買、賃貸業を営んでいたものであり、現在は不動産賃貸業を主業としている。また、昭和四一年一月には松戸市長選挙にも立候補した。

(二) 原告は、昭和四二年から二、三年間野村証券浅草支店で、昭和四八年から二、三年間岡三証券虎ノ門支店で、それぞれ株式現物及び信用取引、投資信託、社債等の証券取引を行い、その間、野村証券では三〇万二〇〇〇株余りの日産農林の現物株式の売買もなした。その後、昭和四八年九月から昭和五一年一二月まで、被告大和本店営業部において株式現物及び信用取引等を継続的に行い、その取引額は一日に一〇〇〇万円を超えることも稀ではなかった。

また、原告は、日経新聞に加え日刊投資新聞等の専門誌を購読し、また、短波ラジオの株式実況を聴取していた。

(三) 原告は、右本店営業部での取引で、当時営業課長代理をしていた被告山口と面識を持った。

原告は、その後被告山口と関わりがなかったが、昭和六二年一月末頃、被告山口が被告大和の名古屋支店営業部第二営業部長から渋谷支店長に栄転したことを日経新聞の人事欄で知り、被告山口にお祝いの挨拶かたがた電話をかけ、その頃、渋谷支店に赴いて被告山口と面談した。

原告は、その後、不動産売買で五〇〇〇万円程の入金が予定されていたので、昭和六二年三月中旬頃、被告山口に電話で相談したところ、被告山口から私に一切任せて下さい、何も心配はいりません。必ず殖やしますと言われ、五〇〇〇万円を証券取引に投資し、その運用を被告山口に一任することに決めた。

被告山口は、昭和六二年三月一六日、原告のために応募の西濃運輸のCD五〇〇万円の配分を受けてこれを確保し、昭和六二年三月一八日、同月一六日付で渋谷支店に原告名義の取引口座が開設され、原告は、同月一九日、五〇〇〇万円を持参して右口座に入金した。その際、事務処理担当者として小山を紹介された。

(四) 渋谷支店の原告名義の取引口座においては、昭和六二年三月から昭和六三年七月までは継続的に株式の現物及び信用取引、転換社債及びワラント等の取引、ワラントについては別紙(三)第一表(渋谷支店分)記載の取引がなされたが、昭和六三年七月二〇日から同年一〇月二日までは全く取引がなされず、同月三日に日本板硝子株式の売付及び出金がなされただけで、その後も同年一一月二七日までも全く取引がなされなかった。

原告は、昭和六三年一一月頃、同年夏頃から渋谷支店より取引報告書等が送付されなくなったことに思い当たり、渋谷支店に連絡したところ、被告山口が同年八月に渋谷支店長から被告大和の本店投資信託部付部長に転勤したことを知った。原告は、小山に対し、被告山口の無責任さを相当強く抗議した。なお、その時点で原告の取引口座では相当の損害が発生していた。

(五) 被告山口は、昭和六三年一一月末、帝国ホテルの喫茶ルームにおいて、原告と面談し、原告に対し、本店投資信託部付部長への転勤の連絡が遅れたこと及び渋谷支店での取引において原告に損害が生じたことを謝罪し、原告から損害を生じた責任を取るように求められて、東京支店に原告名義の取引口座を設けて、そこでの取引を被告山口が一任されて行い、右損害を回復することになった。

(六) 渋谷支店の原告名義の取引口座では、昭和六三年一一月二八日以降に株式の売付と信用取引の決済がなされ、「ジュウジョウ」ワラントが同年一二月一三日に買い付けられ同月一九日に売り付けられて約三〇〇万円の売買差益を生じ、これを加えた三六八九万二一〇九円が同月二一日に出金された。

東京支店では、昭和六三年一二月一九日頃、原告名義の取引口座が開設され、渋谷支店での決済金の大半の三六〇〇万円が入金され、別紙(三)第二表(東京支店分)記載のワラント取引を主とする証券取引(ワラント以外は、応募のマツダ及び永谷園本舗の転換社債各一〇〇万円の買付及び売却があるのみ。)をなし、ワラント売買差益として二一四六万一八六九円を生み、平成元年四月二八日から同年七月二〇日までに合計五四九一万一八六九円が出金され、その後、被告山口が被告ユニバーサルに出向するまでの間に、右口座で証券取引がなされることはなかった。

その間に、原告は、平成元年三月八日、ワラント取引に関する説明書を受領し、ワラント取引に関する確認書を作成し、また、買い付けたワラントについては預り証を受領していたが、そこには権利行使最終日が記載されていた。

なお、原告は、被告山口から東京支店の三浦支店長を紹介されていたが、被告山口が被告ユニバーサルに出向するまでの間に、三浦支店長その他の東京支店の従業員との間で証券取引が成約したことはなかった。

以上の事実が認められる。

2 渋谷支店及び東京支店での取引が被告山口に一任されてなされたと認定した点について

被告山口の供述中には、前記被告らの主張と同旨の、取引がすべて原告の指示に基づきなされた旨の供述部分がある。

しかしながら、前記事実によれば、

(一) 原告は、一〇年以上前の被告大和との証券取引の際に面識があった程度でその後全く関わりがなかった被告山口が、渋谷支店長に栄転したのを知るや自ら連絡を取り、長らく中断していた証券取引を再開したこと、

(二) 渋谷支店での取引及び昭和元年四月一九日までの東京支店での取引において、被告山口以外の渋谷支店の従業員ないしは東京支店の従業員との間で証券取引が成約したことはなく、また、原告は被告山口が本店に転勤したことを何ヶ月も連絡しなかったことを無責任であると相当強く抗議したこと、

(三) 渋谷支店における原告名義の取引口座においては、昭和六二年三月から昭和六三年七月までは継続的に証券取引がなされていたが、昭和六三年七月二〇日から同年一一月二七日までは、その間わずかに同年一〇月三日に日本板硝子株式の売付及び出金がなされたにすぎず、それまでの証券取引に比較して取引がなされていないに等しい状態であったところ、この証券取引がなされていないに等しかった時期と、被告山口が渋谷支店長から本店投資信託部付部長に転勤し、その事実を原告が知らされていなかった時期とが重なり合うこと、

(四) 殊に東京支店での平成元年四月二四日までの取引は、その内容からみても、例えば、昭和六三年一二月二一日にトーヨーサッシワラントを四二・七五ポイント、二六六七万六〇〇〇円で買い付け、翌二二日に五〇ポイント、三〇九五万三八一三円で売り付け、同月二六日にイトウチュウCワラントを五一ポイント、三九八一万一八七五円で買い付け、そのうち一部を平成元年一月九日に五五ポイント、三四三七万七三七九円で売り付け、その余を同月一〇日に五六ポイント、八七二万二七六〇円で売り付けているが、かような売買が可能であるにはワラント価額の変動を常時把握し価格の上昇に即座に対応できる立場にあることが必要であるところ、原告はかような情報を随時入手し即応できる立場にはなく、なおかつ、東京支店でのワラント取引はすべて利益を出すという神業的な結果となっているのであり、かような取引は、被告山口に一任されない限り不可能であること、

(五) 東京支店での取引は渋谷支店での取引により原告が蒙った損害を回復する目的でなされたものであり、東京支店で被告山口が関与してなされた取引は平成元年四月一九日で、約二一四六万円の売買差益を生じ、渋谷支店での損害を回復して相当の利益を生んだ段階で終了していること、

以上のとおりいうことができ、

(六) また、《証拠略》によれば、本店営業部でかつてなされた取引においては、証券取引が成立するのに応じて現金等が随時入出金されていたが、渋谷支店での取引では当初の段階で五〇〇〇万円が入金され、東京支店でも当初段階で三六〇〇万円が入金され、その後はそれを運用して証券取引が継続的になされたことが認められ、

以上によれば、渋谷支店及び東京支店での取引は、被告山口が原告から一任されてなしたものというべきであり、前記被告山口の供述部分は証拠として採用できないものというべきである。

3 被告山口はワラント取引をなすについて原告に対しワラントの商品特性等を説明したか。

被告山口の供述中には、前記被告らの主張と同旨の、ワラントの商品特性について、ワラントは新株引受権の権利を売買するものであり、その価格は株価に連動してその二、三倍の率で動くこと、権利行使価格や権利行使期間があり、右期間を経過すると価格がゼロになること等を電話で一五分程度説明した旨の供述部分がある。

しかし、前記のとおり、ワラントの説明書が原告に交付されたのは、平成元年三月八日であり、昭和六二年五月当時は交付されていなかったのであり、前記のとおり、株式の現物及び信用取引の経験は豊富であるがワラントやオプション取引の経験もない原告が、電話で口頭の説明を受けただけでワラントの商品特性を理解することは、その内容からいって極めて困難というべきで、原告がそれだけでワラント取引をなすことを納得、了解するとは考えられない。現に、《証拠略》によれば、原告は平成二年夏頃、タテホ化学のワラントが権利行使期間が経過して紙屑になるという新聞記事を見て、その真偽を被告山口に質問していることが認められ、原告は平成二年夏の時点でもワラントについての正確な知識を全く有していなかったことが認められる。

そして、被告山口の供述中には、被告山口の約一五分間の説明に対して原告からどのような質問、反応がなされたか等の供述がなく、その供述は迫真性、臨場感に欠けるものといわざるを得ず、また、原告の供述中には、被告山口からのワラントの説明は、ワラントは大手四社の寡占状態で相場は大手四社で操作でき、三倍から四倍の儲けが出る旨の説明を受けただけである旨の供述部分があり、被告山口の供述中にも、最初の段階に四社寡占である旨を原告に話した旨の供述部分がある。

以上によれば、被告山口が昭和六二年五月に原告に対しワラントの商品特性を説明したという前記供述部分は、証拠として採用できないというべきであり、他に、被告山口が原告に対しワラントの商品特性について説明したことを認めるに足りる証拠はない。

二  被告ユニバーサル及び被告大和の兜町支店における取引は一任取引であったか。

1 《証拠略》によれば、次の事実が認められる(但し、被告山口が平成元年七月一〇日付で被告ユニバーサルに出向し、株式トレーディング室付部長に就き、同年一〇月からワラント部長にも就任したこと、原告が平成元年八月一七日に被告ユニバーサルにおいて取引口座を開設したこと、原告がワラント取引に関する確認書に署名、押印したこと、右取引口座において平成元年八月一七日に五〇〇万円が同年九月一三日に二〇〇〇万円が入金され、更に平成二年一月二九日に四八〇〇万円が、同年二月一九日に八一五万円が、同年三月五日に一一億七五〇〇万円が入金され、平成二年八月までに別紙(一)記載のワラント取引が行われたこと、被告山口が平成二年八月一三日付で被告ユニバーサルから被告大和に復帰して株式部付部長になったこと、原告が平成二年八月に被告大和の兜町支店に取引口座を開設し、その頃、被告ユニバーサルの原告の取引口座で保護預かり中の有価証券や預り金が兜町支店に開設された原告の取引口座に移管され同口座において別紙(二)記載のワラント取引が行われたことは争いがない。)。

(一) 原告は、被告山口が平成元年七月一〇日付で被告ユニバーサルに出向して、株式トレーディング室付部長に就任するや、平成元年八月一七日、被告ユニバーサルにおいて取引口座を開設して、証券取引を再開した。

原告の取引口座においては、平成元年八月一七日、富士通CBが買い付けられて五〇〇万円が入金され、同年九月一三日にDハウス2のワラントが買い付けられて二〇〇〇万円が入金され、その後、しばらくはこの二五〇〇万円の投資資金の範囲内で証券取引がなされた。原告は、平成二年一月、被告山口に対し、不動産売買により一二億円余が近々入金されるので、これを証券取引に投資する旨を話し、平成二年一月二九日、四八〇〇万円、同年二月一九日、八一五万円、同年三月五日、一一億七五〇〇万円をそれぞれ入金した。右取引口座では、平成二年七月一七日まで、別紙(五)記載のとおり証券取引がなされ、その中で別紙(一)記載のとおりワラント取引がなされた。

なお、原告は、平成元年八月三一日、外国新株引受権証券の取引に関する確認書に署名押印し、外国新株引受権証券の取引に関する説明書を受領し、また、原告に交付されたワラントの預り証には権利行使最終日が記載されていた。

被告ユニバーサルにおける証券取引においては、被告山口以外の被告ユニバーサルの従業員との間で証券取引が成約されたことはなかった。

(二) 被告山口が平成二年八月一三日付で被告ユニバーサルから被告大和に復帰して株式部付部長になったことから、原告は、平成二年八月一三日、東京支店兜町営業所(兜町支店という。)に取引口座を開設し、ワラント取引に関する確認書を作成し、同月一四日ないし一六日、被告ユニバーサルの原告口座で保護預かり中の有価証券や預り金三億円余が右原告名義の取引口座に移管された。原告は、その頃買い付けたワラントに既に相当な評価損が生じていることを知ったが、従前どおり取引を継続することとし、加えて、平成二年八月二三日、月次報告書方式を選択し、預り証の発行も省略されることとなった。

右取引口座においては、平成二年八月一四日から別紙(五)記載のとおり証券取引がなされ、その中で別紙(二)記載のとおりワラント取引がなされた。

これらの証券取引において被告山口以外の被告大和の従業員との間で証券取引が成約されたことはなかった。

(三) 原告は、平成三年三月、不動産取引による所得税支払の必要があり、被告山口に対し、兜町支店での証券取引の決済を相談したところ、被告山口から、ワラントの運用成績が現在落ちているので、このまま回復を狙った方が良いと言われ、東京相和銀行赤坂支店を紹介されてそこから二億三〇〇〇万円の融資を受けて右所得税を納めた。そして、原告が被告山口に右融資金の利息の支払について相談したところ、被告山口から、原告が兜町支店で預託してある佐伯建設株式一〇万株の本券を利用して被告山口の裁量において捻出する旨の申し出がなされたので、平成三年一一月五日、兜町支店から佐伯建設株式一〇万株が出庫され、平成三年一二月二六日から平成四年三月二五日までに合計三〇〇万円が原告に支払われ、佐伯建設株式一〇万株は被告大和の大森支店に原告名義の口座が開設されて、再び預託された。

その後、平成四年四月一五日から、大森支店において被告山口の裁量により証券取引がなされ、平成五年四月一九日から、被告大和の浜松町支店においても原告名義の取引口座が開設されて被告山口の裁量により証券取引がなされ、これらの証券取引によって得られた利益は、原告に交付された。

2 右事実によれば、

(一) 原告は、前記のとおり、渋谷支店及び東京支店において、被告山口に一任して証券取引をなし相当な利益を得たが、被告山口が被告ユニバーサルに出向して株式トレーディング室付部長に就任するや、被告ユニバーサルに取引口座を開設して証券取引を再開しており、その証券取引については、渋谷支店及び東京支店のときと同様に、被告山口以外の被告ユニバーサルの従業員との間で成約されたものはないこと、

(二) 原告の取引口座においては、平成元年八月一七日及び同年九月一三日に合計二五〇〇万円が入金され、その後、平成二年一月二九日から同年三月五日の間に不動産取引による取得金合計一二億三一一五万円が入金されて証券取引がなされ、また、被告大和においては、被告ユニバーサルから移管された預り金三億円余が入金されて証券取引がなされており、かように取引口座が開設された当初の段階で一定まとまった額が預託され、その後はその預託金を運用して継続的に証券取引がなされているのであって、かような形態は、被告山口に取引を一任した渋谷支店及び東京支店のときと同形態であり、原告の裁量において取引した被告大和本店営業部のときの形態とは異なること、

(三) 原告は、兜町支店の取引において、月次報告書方式を選択して、預り証の発行も省略していること、

(四) 被告ユニバーサルの原告の取引口座においては、一二億円余が入金される前後の平成二年三月一日から同月一四日までの短期間に十数銘柄のワラントが代金六億円以上で一挙に買い付けられているが、前記のとおり、原告はワラントの商品特性について説明を受けたとは認められず、平成二年夏の時点でもワラントについて正確な知識を有していなかったものであるから、原告の前記証券取引の経験に照らしても、原告にはかように大量のワラント取引を短期間になし得るに足りる知識及び技量があるとは窺えず、かような取引は被告山口でないとできないものであったといえること、

(五) 被告山口は、被告大和の他の支店で原告名義の取引口座を開設して被告山口の裁量により取引するなどして得た利益を原告に交付しており、被告ユニバーサル及び兜町支店の原告名義の取引口座での取引により生じた損害を、穴埋めするかのような行為をなしていること、

以上のとおりいえるのであって、右によれば、被告ユニバーサル及び兜町支店での取引は、被告山口が原告から一任されてなしたものというべきであり、これに反する被告山口の供述部分は証拠として採用できない。

三  利回り保証及び断定的判断の提供があったか。

《証拠略》によれば、原告は一二億円余の資金を預託して、その証券取引による運用を被告山口に対し一任するについて、被告山口は、安全確実に運用するから自分に任せて下さい、年利八パーセントで運用します、絶対間違いはなく、八パーセントは最低であり、それ以上で運用する等といった趣旨のことを述べて、被告山口の裁量において証券取引をなすことを請け負ったこと、もっとも、どのような方法により一二億円余を運用して八パーセント以上の利益を挙げるのか、その具体的方法、計画については何ら話されなかったことが認められる。

しかるところ、前記のとおり、原告は、豊富な証券取引歴を有し、かつ社会的、経済的経験も豊富であるから、通常の適法な証券取引においては絶対ということはあり得ず、利回りを保証してもそれが確実に実行される保証がないことは当然理解していたものというべきであり、被告山口から具体的な運用方法、計画も明らかにされないで単に年八パーセントで運用すると言われただけでそれを安易に信用するとは考えられず、また、平成二年三月時点は、昭和六二年一〇月のブラックマンデーの暴落後も再び上昇していた株価が、バブル経済の崩壊により平成元年末をピークに急落し、若干持ち直した時期で、今後の株価の動向は極めて不安定、不透明であった時期であり[公知の事実]、原告においても、こういった事情を当然考慮に入れたうえで被告山口の話を理解したものというべきである。

したがって、原告においては、被告山口から前記のように言われて、その話を鵜呑みにして一二億円余の資金の運用を被告山口に任せたと認めることはできず、被告山口の地位、経歴、東京支店での運用実績に基づく証券取引における情報収集力や投資判断能力等を信用、期待して、自ら積極的に資金運用を任せたものというべきである。

なお、原告において、被告山口の話を聞いて不公正な取引による利得を期待したとするならば、それは法的保護に値しないものというべきであるから、それは考慮すべき事情には当たらない。

以上によれば、八パーセントというのは目標数値以上の意味を持つものではなく、原告においても、この点は当然了解していたものというべきであり、前記被告山口の話は、セールストークの範囲内のもので、利回り保証や断定的判断の提供といった違法性を帯びるものとはいえないというべきである。

四  説明義務違反について

(一) ワラントの商品特性について

《証拠略》によれば、ワラントとは、新株引受権付社債が発行された後、それが新株引受権証券と社債券に分離された場合の新株引受権証券の部分をいい、それに表章される新株引受権とは、一定の期間(権利行使期間)内に当該会社の新株を一定の価格(行使価格)で一定の数量を買い受ける権利であること、ワラントの価格は、ポイント(額面額に対するパーセント)で表示され、行使価格と株価との価格差から導き出される理論価格であるワラント・パリティと、現在のワラント価格が将来の株価を期待してどの程度割高(割安)に買われているかを判断する指標であるワラント・プレミアムにより構成され、株式価格と比較してギヤリング効果によりその変動率は大きく、その結果ワラントは少ない投資で高い収益が期待できること(ハイリスク・ハイリターン)、もっともワラント・パリティとワラント・プレミアムとの比率はワラントの価格帯によって異なり、低ポイントワラントではワラント・プレミアムが主であり、高ポイントワラントではワラント・パリティが主であり、極端に低ポイントのワラントや高ポイントのワラントではプラスのギヤリング効果は期待できないなど、ハイリスク・ローリターンのワラントも存在すること、そのため、ワラントは、権利行使期間を過ぎると無価値になるに止まらず、その残期間が少なくなると取引量が減少し、殊に低ポイントのワラントは価格も下落傾向にあり売付の時期を失してしまうおそれがあること、一般投資家によるワラント取引は、権利行使して新株を引き受ける目的でなされたことはまずなく、通常はワラントの売買により売買差益を獲得する目的でなされ、ワラント価格が上昇することを見込んでワラントを買い付けること、ワラント価格は上場企業のものであっても、平成元年五月から日経新聞等に気配値がポイントで掲載されるようになったとはいえ、株式のようにその値動きを仔細に把握し自己が保有するワラントの具体的な価格を知るためには証券会社に問い合わせる必要があること、ワラント価格は、株価と行使価格との差の程度、権利行使期間の残期間といった要素にとどまらず、相場全体のムード、当該銘柄の人気の程度、投資家の思惑、需要と供給の関係等の要素が株式以上に複雑、敏感に作用して決まるため、その変動予測は極めて困難であり、現に、前記のような経歴、実績を有する被告山口においてさえ、東京支店でのワラント取引では相当な利益を出したが、被告ユニバーサル及び兜町支店でのワラント取引では莫大な損失を出したことが認められる。

(二) 本件においては、前記のとおり、原告は被告山口に資金を預託して証券取引を一任していたところ、ワラントは前記のとおりハイリスクな商品であることから、証券投資信託においてもワラントに投資されることはなく[被告山口]、預託した一二億円余は原告にとっても相当多額なものであるから、これをワラントの買付に当てることは一般的にいって相当でないというべきある。そして、平成二年三月という時期は、昭和六二年一〇月のブラックマンデーの暴落後に再び上昇していた株価が平成元年末をピークに急落し、若干持ち直すという時期で、今後の株価の動向が極めて不安定、不透明な時期であったといえるのであって、こういった事情も勘案すると、被告山口においては、かような時期に預託された一二億円余のうちかなりの部分をリスクの高いワラント取引に投資するについては、証券取引について一任されていたというだけでは足りず、別途原告の了解を得る必要があったというべきである。

しかるところ、前記のとおり、渋谷支店及び東京支店において被告山口に一任してなされた証券取引にはワラント売買が含まれており、原告は、渋谷支店及び東京支店での取引により生じた利益を受領することにより右支店における取引を了解したものと認められ、また、《証拠略》によれば、原告は、被告ユニバーサル及び兜町支店における取引について、ワラントの預り証を異議なく受領し、ワラント取引も含めていずれも相違ない旨の回答書を作成していることが認められるから、原告は被告山口による一任取引においてワラント売買をなすことを了解した形となっているということができる。

しかし、前記ワラントの商品特性からすると、顧客の自主的かつ自由な判断と責任によるワラント取引の了解が得られたといい得るためには、証券会社の従業員において、前記ワラントの商品特性を説明してこれを顧客に十分理解させることがその前提として必要であるというべきである。

しかるところ、被告ユニバーサル及び兜町支店におけるワラント取引の際に被告山口ないしは他の従業員が原告に対しワラントの商品特性について説明したことを認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり、渋谷支店及び東京支店における取引においても、被告山口が、原告に対し、ワラントの商品特性を説明したことを認めるに足りる証拠はなく、また、《証拠略》によれば、東京支店の三浦支店長は、平成元年三月五日に原告に対し分離型ワラントと題する説明書を交付する際にもワラントの商品特性について説明しなかったことが認められる。

以上のとおりであるから、被告山口らは、ワラントについての説明義務を果たしておらず、原告においてワラントについて正確な知識を有していなかったというべきであるから、被告ユニバーサル及び兜町支店においてなされたワラント取引について、原告の自主的かつ自由な判断に基づく了解があったとはいえないというべきである。

五  受託者義務

1 不合理な取引を回避すべき義務について

前記事実、《証拠略》によれば、別紙(一)及び(二)記載のワラント取引では、別紙(四)記載のとおり、一〇ポイント以下の低ポイントのワラント、あるいは、権利行使期間が二年以下のワラントが買い付けられ、それらがいずれも売買差損を生じたこと、一〇ポイント以下のワラントは株価が行使価格を相当下回っており、株価が多少上昇しても行使価格を下回る状況が解消されないため、株価の上昇に対するワラント価格の上昇は鈍く、ギヤリング効果が働かないため、一般的にハイリスク・ローリターンの状態にあること、権利行使期間が二年以下のワラントは需要及び取引量が減少しており、時間の経過に伴ってワラント・プレミアムが減少するものであるから、一般的に値上がりする可能性は極めて低いことが認められる。

したがって、かようなワラントの買付は一般的にいって相当でないというべきである。

もっとも、《証拠略》によれば、平成三年一月二一日に一七ポイントで買い付けられた小野田セメントのワラントについては権利行使期間が残り約一年六か月のものであっだが、一時期二〇・二五ポイントまで価格が上昇したことが認められ、また、被告山口において専ら被告ユニバーサルあるいは被告大和における取引実績をあげるため、あるいは手数料稼ぎのためにかようなワラント売買をなしたことを認めるに足りる証拠もないから、かようなワラントの買付が直ちに違法であったとはいえないというべきである。

2 原告が不測の損害を蒙ることのないように配慮すべき義務について

前記のとおり、ワラントはハイリスクな商品で証券投資信託においてもワラントに投資されることはなく、預託した一二億円余は原告にとっても相当多額であったから、買い付けたワラント価格が下落して評価損を生じたときには、前記ワラントの商品特性に鑑み、徒に値上がりを期待して売付時期を失することがないように、相当な価格でできるだけ速やかに売り付け、損失を最小限度に止めるようになすべき義務(損失拡大防止義務という。)があったというべきである。

しかるに、前記のとおり、被告山口は、被告ユニバーサルから兜町支店に移管されたワラントをはじめ、兜町支店で買い付けたワラントについても、早期に値上がりせず売却しても利益が出ないものについては、権利行使期間の終期まで売却せずに放置して、結局、廉価で売却するか、被告大和で〇・〇一ポイントで引き取るか、行使期間を経過させたものであり、右義務に違反したことが認められる。

七  被告山口の責任について

以上によれば、被告山口は、原告から資金運用を一任されていた一二億円余について、これをリスクの大きいワラント取引に投資することは一般的にいって相当でなかったから、これをワラントに投資するには原告の了解を得ることが必要であったというべきであり、その了解が自主的かつ自由な判断と責任においてなされるように、被告山口にはワラントの商品特性を原告に対し説明すべき義務があったというべきである。にもかかわらず、被告山口は、かような説明義務を果たさずに前記ワラント取引をなし、しかも、買い付けたワラントの中には一般的に投資対象としては不適格なローリターン・ハイリスクのワラントが含まれていたから、かような行為は、説明義務に違反して顧客の自主的かつ自由な判断及び責任に基づかずにワラント取引をなしたという意味合いにおいて、説明義務違反の違法な勧誘によってワラント取引をなさしめた場合と同様、違法なものというべきである(もっとも、個々のワラントの売買における投資判断をなすのは、説明義務違反の違法な勧誘のときには、ワラントについて知識、経験を有さない顧客であるのに対し、本件一任取引における説明義務違反の違法な了解のときには、前記地位、経歴及び実績を有する被告山口であるから、その違法は比較的軽微であるというべきである。)。

以上のとおりであるから、被告山口は、原告名義の取引口座においてなされたワラント取引により原告が蒙った七億七四一九万四二五二円の損害について不法行為責任を負うべきである。なお、被告山口の兜町支店における行為の評価については後述する。

八  被告ユニバーサルの責任について

前記事実によれば、被告ユニバーサルの原告名義の取引口座における取引については、被告山口が被告ユニバーサルの業務の執行についてなしたものといえるから、右取引口座で買い付けられたワラントについて生じた損害については、被告ユ二バーサルは使用者責任を負うというべきである。そして、被告ユニバーサルで買い付けられ兜町支店に移管されて売り付けられたワラントについては、移管後に拡大した損害についても、前記説明義務違反と相当因果関係がある損害というべきであり、被告ユニバーサルに賠償責任が生じるものというべきである。

よって、被告ユニバーサルにおいて買い付けられ兜町支店に移管されたワラントの売買により別紙(四)第二表(被告ユニバーサル買付・兜町支店売付分)記載のとおり六億八六七八万八四七八円の差引損失を生じ、被告ユニバーサルにおいて売買が完結したワラント売買によっては別紙(四)第一表(被告ユニバーサル分)記載のとおり三九三〇万一八九四円の差引利益を生じたから、被告ユニバーサルの業務の執行についてなされた行為により発生した損害は、六億四七四八万六五八四円ということになる。

九  被告大和の責任について

1 被告大和は、被告ユニバーサルの系列上位にある会社ではあるが、両社はあくまで別法人であり、被告ユニバーサルに在籍中の被告山口の業務執行行為について、被告大和には指揮監督権はなく、その業務執行の結果としての利益は被告ユニバーサルに法的に帰属し被告大和には帰属しないから、被告山口の被告ユニバーサルにおける業務執行行為が被告大和の業務執行行為にも当たるとは認められない。

2 被告ユニバーサルにおいて買い付けられ兜町支店で売り付けられたワラントの売買差損のうち兜町支店に移管後に拡大した損害について、被告山口の不法行為が重畳的に成立し、被告大和に使用者責任が認められるか。

被告山口においては、前記のとおり、原告から一二億円余の投資資金を委ねられて証券取引を一任されており、損害拡大防止義務がありながら、この義務を果たさなかったものであり、加えて、<1>被告山口においては先行行為に基づく作為義務があること、すなわち、兜町支店に移管されたワラントは前記のとおり被告山口が被告ユニバーサルにおいて説明義務に違反して原告の自主的かつ自由な判断と責任に基づく了解を得ずに違法に買い付けたワラントであること、<2>損失拡大防止義務の違反の期間が長期であること、すなわち、被告ユニバーサルから兜町支店に移管される時点で既に相当な評価損を生じていたにもかかわらず、被告山口はその後長期間これを売り付けずに放置したこと、<3>被告山口はワラントが無価値になるまで放置し損失を最大限まで拡大させたことが認められ、以上によれば、被告山口の損失拡大防止義務に違反する不作為には、故意に比肩する重大な過失があったというべきであり、右不作為は原告の投資資金に対する権利を違法に侵害する社会的相当性を欠くものというべきである。

そして、被告山口が果たすべき損失拡大防止義務は、被告大和の業務の執行についてなされるべき行為というべきであるから、その違反の結果生じた損害については使用者責任を負うというべきである。

しかるところ、《証拠略》によれば、被告ユニバーサルにおいて買い付けられたワラントの、平成二年七月一八日当時の評価損は、同月一七日に買い付けられた「Cイトウチュウ4 WR9307」数量一〇〇万ドル及び、同数量一五〇万ドルを除いて、一億五四〇四万八一八七円であったことが認められ、被告ユニバーサルから兜町支店へ移管された平成二年八月一七日当時も同程度の損害を生じていたものと推定でき、右推定を覆すに足りる証拠はないから、原告には右移管当時一億五四〇四万八一八七円の損害を生じていたというべきであり、よって、これを越える損害が被告大和において拡大した損害というべきである。

3 原告には、被告大和におけるワラント売買により、別紙(四)第二表(被告ユニバーサル買付・兜町支店売付分)記載のとおり、六億八六七八万八四七八円の売買損失(なお、平成五年一〇月二七日約定の「3トーメン」の売付の金額及び損は、《証拠略》により別紙(三)第四表ではなく、別紙(四)第二表が正しいと認められる。)、及び別紙(三)第三表(兜町支店分)記載のとおり(但し、平成五年一〇月二七日約定の「3回卜ーメン」については、《証拠略》により、単価を〇・〇一ポイント、金額を五三一三円、損失を六三四万二四九九円と認定し、よって、損計は一億三七〇三万九一一五円、差引損は一億二六七〇万七六六八円となる。)、一億二六七〇万七六六八円の売買損失、合計八億一三四九万六一四六円の差引損失を生じ、そこから兜町支店に移管される段階で既に生じていた損害一億五四〇四万八一八七円を差し引いた六億五九四四万七九五九円が、被告大和において発生した損害というべきである。

4 そして、被告ユニバーサルにおいて買い付けられ兜町支店において売り付けられたワラントでは、六億八六七八万八四七八円の差引損失を生じているから、そこから一億五四〇四万八一八七円を差し引いた五億三二七四万〇二九一円について被告大和と被告ユニバーサルとの共同不法行為が成立するというべきである。

一〇  損害賠償額について

1 過失相殺

原告は、前記のとおり、被告大和を含めた数社と多様な証券取引をなしてきた、証券取引の経験が豊かなベテランの投資家というべきものであるが、一〇年以上も前に面識があった程度でその後関わりがなかった被告山口が渋谷支店長に抜擢されたことを知って自ら連絡を取り、被告山口に投資資金を委ねて証券取引を一任し、渋谷支店での証券取引によって損失を生じるや、被告山口にその穴埋めを求め、被告山口による東京支店でのワラント取引で右損失を穴埋めして余りある利益を得た後、被告山口が被告ユニバーサルに出向して株式トレーディング室付部長兼ワラント部長に就任するや、被告ユニバーサル及び兜町支店において、一二億円余を預託して証券取引による資金運用を被告山口に一任したものであるから、以上によれば、原告は、被告山口の経歴、地位及び実績に着目し、一般投資家よりも情報収集力及び投資判断能力等の点で優位にあった被告山口に対し、その優位性を利用して証券取引をなすことで一般投資家である原告自身による取引では容易に得られないような利益を挙げることを期待して、自ら積極的に証券取引による資金運用を委ねたものといえる。そして、利益を上げるために一定程度ハイリターンの証券取引をなすことも暗黙に了解し、他方、証券取引である以上は被告山口の情報収集力と投資判断能力等をもってしても避けられない一定のリスクを伴うことは当然承知のうえで、一任したものということができ、一任取引それ自体における違法性は認められないというべきである。そうして、原告は、その期待が現実化した東京支店におけるワラント取引による利益を享受しているのであるから、そうである以上、原告は、ワラン卜取引によるリスクである損失についても負わなければならないというべきである。

そして、原告の投資経験や社会経済的経験に照らすと、原告は、ワラントについても、渋谷支店及び東京支店でのワラント売買によりワラントが短期に相当な利益を出すハイリターンな商品であることがわかったのであるから、その反面としてリスクも大きいことは当然認識し得たというべきであり、現に、平成元年一一月に被告ユニバーサルでなされたニチイワラントの売買では二三五万円余の損害を生じているのであるから、被告山口がなすワラント売買においても証券取引である以上、損失を生じることがあることをも当然理解し得たものというべきである。また、原告は、昭和六二年当時既にワラントという言葉をテレビや新聞で見聞きしており[原告]、原告の定期購読している日経新間においてもワラントに関する記事が何度となく掲載され、なおかつ、前記のとおり原告は被告らからワラントについての説明書を幾度か交付されていたのであるから、原告は、ワラントの商品特性について理解する機会が十二分に与えられており、原告の前記投資経験、経歴に照らせば、その内容を理解することは十分可能であったといえる。なおかつ、原告は、被告ユニバーサルから兜町支店にワラントが移管される時点で、既に一億五〇〇〇万円を超える評価損が出ており、他方売買益は三九三〇万円余に止まっていたことを知りながら、なおかつ丁度その頃であった平成二年夏頃にタテホ化学のワラントが無価値になる旨の新聞記事を見たにもかかわらず、漫然と一任取引を継続したものであり、その結果、右移管時には約一億一四七〇万円の損失であったものが、最終的に七億七四一九万四二五二円にまで拡大したのであり、以上によれば、原告には、損害の発生、拡大について過失があったものというべきである。

加えて、被告山口による証券取引が損失を出した原因は、誰もが予想していなかったバブル経済の崩壊という経済情勢の変化、すなわち、昭和六二年一〇月のブラックマンデーの暴落後も再び上昇していた株価が、バブル経済の崩壊により、平成元年末をピークに急落し平成二年三月前後頃に一時若干持ち直したもののその後再びほぼ一本調子で急落し平成五年になって少し持ち直したという経済情勢の変化[公知の事実]にあったことは否定できず、現に、別紙(五)記載のワラント取引以外の証券取引においても六〇〇〇万円を越える損失を生じているのである。そして、原告においては、かような経済情勢の予期しない変動が生じていながら、一任取引を継続したという事情も認められる。

以上の事情を総合すると、原告に生じた損害のうち七割を過失相殺するのが相当というべきである。

2 損害額

弁護士費用については、本件訴訟の難易その他の諸般の事情を勘案すると、本件不法行為と相当因果関係のある損害としては、被告山口において八〇〇万円、被告大和及び被告ユニバーサルにおいてそれぞれ七〇〇万円が相当というべきであり、そのうち七〇〇万円については被告大和と被告山口との、そのうち七〇〇万円については被告ユニバーサルと被告山口との、そのうち五〇〇万円については被告大和と被告ユニバーサルとの、それぞれ共同不法行為により生じた損害というべきである。

よって、被告山口は、七億七四一九万四二五二円の三割である二億三二二五万八二七五円(一円未満切捨。以下同じ。)に弁護士費用八〇〇万円を加えた二億四〇二五万八二七五円を、被告大和は、六億五九四四万七九五九円の三割である一億九七八三万四三八七円に弁護士費用七〇〇万円を加えた二億〇五八三万四三八七円を、被告ユニバーサルは、六億四七四八万六五八四円の三割である一億九四二四万五九七五円に弁護士費用七〇〇万円を加えた二億〇一二四万五九七五円を、被告山口と被告大和とは二億〇五八三万四三八七円の限度で共同不法行為として、被告山口と被告ユニバーサルとは二億〇一二四万五九七五円の限度で共同不法行為として、被告大和と被告ユニバーサルとは一億五五八二万二〇八七円(五億三二七四万〇二九一円×〇・三+五〇〇万円)の限度で共同不法行為として、原告に蒙らせた損害として賠償すべき責任があるというべきである。

(裁判官 田中寿生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例